なぜ博士課程に進学したのか?

先日,西尾研究室に入ってきた学部4年生の後輩学生さんたちから「なぜ博士課程に進学したのか?」と質問を受けました.その場では「もともと博士課程なんかには進学するつもりはなかったが,研究しているうちに面白さが分かり,もっとやりたいと思うようになった.自分なんかは博士課程に進学できないと思っていたが,何とか博士課程に進学できた,させてもらえた」などといい加減なことを述べてしまいました.もちろん時間が限られていたので,簡単に分かりやすい話をしたのですが,「なぜ博士課程に進学したのか」はとても大事なことだと思ったので,ここに書かせてもらいました.西尾研究室の後輩,大学生,高校生・中学生など,博士課程に興味を持っている方の参考になれば幸いです.
なお,質問などがありましたら1222702(at)ed.tus.ac.jpまでご連絡をお待ちしております.

① この研究課題を自分が解決したいと本気で思ったから.
② 研究することが好きで,博士として研究職に就きたいと思ったから.
③ 生涯ついてきたいと感じる,尊敬する研究者に出会えたから.

① この研究課題を自分が解決したいと本気で思ったから.

学部4年次に教授や研究員の研究紹介を聞いて,最も面白そうだと感じて選んだテーマを今でも続けています.
もともと理学部物理学科ではあるものの応用との距離が近い研究がしたいと思っていました.3年生の時に研究室紹介で聞いた「超伝導潜在開発」というテーマに興味があり,研究室を希望したことも覚えています.実際にはこのテーマはプロジェクトが終わったことで,私が関わることはできなかったのですが… その時は残念にも思いましたが,逆に,最も挑戦的で楽しそうな研究をしたいと考えを改め,銅酸化物高温超伝導体の臨海電流密度に関する今のテーマを選択しました.結果としては,このテーマが難しくも大変面白く,今まで研究し続けることができました.
学部4年生の後の修士課程2年間でも継続的に挑戦できたことで,新奇な興味深い結果を得ることに成功しました.その一方で,予期せぬ新しい結果が得られただけに,その解釈も容易ではなく,修士課程の2年間で原因まで解明することはできませんでした.高校の教員を目指していた私は,教壇に立つ前にもっと学びを深めたいと考え修士課程(大学院)に進学しましたが,学びが深まり,研究も進むにつれ「もっと研究したい」「自分でこの課題を解決まで導きたい」と感じるようになり,少しずつ博士課程を意識するようになりました.

② 研究することが好きで,博士として研究職に就きたいと思ったから.

もちろん社会のために働いて,仕事として働かなければいけませんから,「面白い・楽しい」だけでは博士課程への進学は決心できませんでした.
そもそも私は高校教員を目指してきたわけですから,研究職につくビジョンは何も持っていませんでしたし,それに向けた準備もしてきませんでした.一方で,高校教員を志望して,東京理科大学を志望したので,大学の1−3年次では教員になるための勉強や活動に本気で取り組んできました.この大学で積んできた様々な経験が活かせたことで,4年次の教育実習では「教職が最高に幸せな生業だ」と感じましたし,本当に挑戦的で楽しい時間となりました.また修士1年生の時には,研究しながら都内の中学校で非常勤講師(理科)をするご縁にも恵まれました.
博士課程への進学を真面目に考え始めていた一方で,本当にやりたいと思っていた教職にならずに研究職の道を選んでしまって良いのかという葛藤を抱える時期でした.そのため「生徒に勉強の楽しさ・勉強の楽しさを伝えたい.生徒に勉強をできるようにより良い支援がしたい」「修士1年生,大学院生,研究者の卵(?)として,自分だからこそ伝えられることを教えたい」という考えに加え,「実際に教師として教壇に立ち,自分が学んできたことを実践したい.なりたい教員像をより明らかにしたい」という思いで働かせてもらいました.
管理職の先生や先輩教員の方々からは,そのまま教員のキャリアに進むことを勧められ,大変ありがたいことに次年度以降のお話も頂きました.ですが,いつも指導いただいている教授や研究者の皆様,両親とも相談させてもらった結果「今は自分が研究者・メインプレーヤーとして社会課題に挑戦したい,社会貢献したい.教育という観点からは普段のボランティアとして関われるようになりたい」と考えるようになりました.そして最終的に博士課程への進学を決意しました.

③ 生涯ついていきたいと感じる,尊敬する研究者に出会えたから.

指導教員をはじめ,共同研究者である一流の研究員の皆様など,研究を通して心から尊敬する人生の先輩に出会うことができました.正直,自分なんかが世界の最前線を走り続けている先生皆様のようになれるとは思い難いですが,それでも右腕,(左腕?,親指?小指?)ぐらいの働きはしたいと思っています.そして少しずつでも,自立して研究者として世界の研究者と肩を並べるようになりたいと考えるようになってきました.
日々の研究の中で,「疲れたな…」と感じることもありますが,不思議と「もう辞めたい,これ以上やりたくない」とは感じたことはありません.
①②で述べたことはもちろん大切で,それらがなければ博士課程に進学しようとは思いませんでしたが,最後の③が無ければ間違いなく,博士課程には進学しませんでいた.行き詰まることがあって頭を抱えることも多いこの頃ですが,それでも諦めずに何とか前に進みたい,進めたい(打開したい)と思うのは,尊敬すべき先輩たちがいて,時に切磋琢磨し,時に励まし合える仲間がいるからこそだと確信しています.
皆様本当にいつもありがとうございます.感謝感謝です.

「経済的に進学が難しい…」と考えて悩んでいる方へ

私も同じ理由で,博士課程進学だけでなく修士課程進学や大学進学についても悩んできました.その時々で,夜間大学に進学したり,奨学生制度により支援をいただいたいりして,これまで何とか挑戦を続けてこれました.私は実家が都内にあり両親も祖父母も近くに暮らしており,周りからは経済的な困難な状況だとは思われなかったと思います.しかしながら実際には,両家の祖父母の介護,いわゆるダブル介護に直面し,また父の身体障害もあり,なかなか簡単な生活ではありませんでした.ましてやなんでも環境を整えてもらって,自分のやりたい勉強に集中できるような立場ではありませんでした.それでも自分のやりたいことは諦められなかったので,祖母の介護をしたり,アルバイトなどをしながら少しずつ勉強をしてきました.
その結果,学部の4年生や修士課程では給付型の奨学金ももらえ,また博士課程では大学を通して日本学術振興会からも支援をもらえることになりました.そして何よりも,まだまだ未熟でありながらも,研究所ではRAとして雇用してもらい,研究を進められる,大変恵まれた環境にあります.正直,大学入学前の自分や,中学生の時に「父が亡くなるかも,これから先どうやって生きていこう」と不安を抱えていた頃の自分はは想像もしなかったような道に進んできました.
周りの大人,先輩から支援・教育を授かってきたからこそ得られた今だと,確信しています.
これらの支援がもらえるとは,最初は思っていませんでしたが,頑張っているうちに,周りの人が情報を教えてくれ,支援してくれ,一歩一歩進んみ続けることができました.
今,何かの理由があって自分のやりたいことに挑戦できていない人がいるとした,小さなことでいいから,ちょっと頑張って,明日はさらにもう少し頑張って,でも頑張りすぎは禁物,たまには少し休んで,そうして私が博士課程まで進んで来れたように,皆様にも,一人一人にとって最高な道が開けることをお祈りいたします.

2022年6月2日 加藤準一朗